◇自殺の名所というから怖いところだと思ってました


こんばんは。
毎日天気が悪いです。最後にスカッとした青空を見たのがいつだったのか思い出せません。

天気が悪いから全然お出かけする気がおこらず、お休みの日も夫婦揃って家に居て、本ばかり読んでいます。出かけるのはスーパーと本屋と図書館くらい。


それで、以前から気になっていた林真理子さんの本をついに書いました。

小説8050
林真理子
新潮社
2021-04-28



まだ読み始めてないんですけど、面白いかしら?
ヒキコモリがテーマなんですよね。


今回公開された寄稿記事も、引きこもりだった子たちが社会復帰した話です。

こちらから→アルバイトはお金だけ?人生を変えた仕事に出会えた私の素敵な知人たちの話


登場人物は全員が仮名ですし、身バレを防ぐため設定も変えてあります。

私がミサキちゃんと一緒に働いたのがいつだったかはっきり覚えていないのですが、6年以上は前なのかな。

当時は21歳だったミサキちゃんも、今では27歳とか28歳くらいですね。
すっかりお年頃の大人の女性になっているはず。


今でも足摺岬にいるのか、どこか別の場所に移って今も元気に働いているのか、あるいは誰かと出会って結婚して、もうお母さんになっているのか、さっぱり分かりません。
でも、きっと元気にしているでしょう。再会した彼女は、引きこもりだった頃の彼女とは別人になっていましたからね。


足摺岬って、子供の頃にドキュメンタリー番組を見て以来、ずっと怖いところだと思っていたのです。
だから、私は高知県に合計で20年も近くも住んだのに、ミサキちゃんとばったり会ったこの時まで足摺岬には行ったことがありませんでした。
反対側にある室戸岬には、何度も足を運んでいるのですけどね。


そのドキュメンタリーでは、足摺岬は自ら死を求める人たちが全国からやって来る自殺の名所だと紹介されていました。
岬の先端から身を投げると、荒ぶる波と逆巻く渦に飲み込まれて、そのまま岬の真下にある洞窟の中へと流されてしまうので、死体が上がらないのだそうです。

そして、その洞窟の中は冷蔵庫のようになっているため、洞窟内に打ち上げられた溺死体は長い年月腐ることなく形を留めているのだと、その番組では言っていました。

足摺岬はプロのダイバーですら危険な海で、洞窟へ行くのは命の危険を伴うため、基本的に洞窟へ流れた遺体は放置されたままになります。
ですが、一人だけ遺体を探しに潜ってくださる地元のダイバーさんが居て、ご遺族たっての依頼があれば、年に一度だけ洞窟に入るとのことで、それに密着するドキュメンタリーでした。


そのベテランダイバーさんは、40代の男性(当時)だったかと思います。
番組のカメラマンが決死の覚悟で同行したのか、ダイバーさんにカメラを託して撮影したのかは覚えていませんが、明かりに照らされた洞窟の中は静謐で、水死体(モザイク加工されてました)がごろごろと横たわっていました。

その中から依頼のあった仏様を探し出して、亡骸を体にくくりつけて帰るのです。一人でも危険な潮流の中を、帰りは遺体を背負って泳ぐのですよ。
ボランティアだったのか謝礼を受け取っていたのかまでは覚えていませんが、すごいなと思いました。


「だって可哀想だから」

と、そのダイバーさんは仰ったのですが、累計でどれほどの死体があるのか分からない死者の洞窟へ一人で出向いて、無数の死体を一体一体確認しながら目当ての仏様を探し出し、それを背負って激流の中を泳いで帰って来るんですよ?自分も死ぬかもしれないのに。


聖人か狂人ですよね?


どっちかといえば後者ですよね?


30年以上前に見た番組なのですが、その時カメラに映されていた洞窟の映像が脳裏にこびりついていて、怖くて、足摺岬に行こうとは思えなかったんです。行けば死者に引っ張られてしまいそうで。


けれど実際に行ってみたら、拍子抜けするほど良いところでした。ご飯(魚介類)おいしかったですし。
記事にも書きましたけど、空気も緑も濃くて、なんかこう異空間にでも繋がってるんじゃないかと思えるような、神秘的な雰囲気が漂う土地でしたよ。

死の匂いが濃いところって、生の匂いもまた濃いんだなと思いました。
実際に、ミサキちゃんは足摺岬で息を吹き返したわけですしね。


一見するといいお母さん風だったミサキちゃんの母親が毒親だったのかどうか、私には判断ができません。
ミサキちゃんがあのお母さんから逃亡してきたのかどうかも、実際のところは分かりません。単に、私がそのように想像しているだけです。

私が一緒に働いていた頃のミサキちゃんは、他人とまともに口がきけなくて、生きているけど死んでいるような状態でした。けれど、足摺岬で再会したミサキちゃんは、同一人物にも関わらず別人のように生き生きとしていました。
それだけです。


あれから、足摺岬といえばミサキちゃんを思い出します。
そして、私にとって、足摺岬はもう怖い場所ではなくなりました。

あの場所は確かに、心の弱ってしまった人たちが吸い込まれていく生と死の境界なのかもしれません。けれど、誰も彼もが死に絡め取られるわけじゃない。
生きるべき人は、生きていく力を与えてもらえる力強い土地なのだと感じました。