◇依存してないと生きられない


おはようございます。

早速ですが寄稿記事が公開されておりますので、まだお読みでない方はどうぞ。

こちらから→男と付き合う度に殴られ、妊娠中絶を繰り返す恋愛依存の元キャバ嬢〜依存姫〜


知美(もちろん仮名)さんは、私が20代の頃に働いていた職場の同僚です。
精神の病み方が尋常ではなくて、今思い出しても震えますね…。

彼女は「夜の世界から足を洗う」と言って転職してきたのですが、酒・タバコ・男と手が切れず、ちっとも夜型の生活から抜け出せない人でした。
連日のように飲み歩き、まともに食事をしないので、痩せて顔色が悪く、見るからに不健康。
10代の頃から10年近くそんな生活をしていれば、当然ですが早く老けます。まだ27〜28歳だと言うのに、肌には艶がなく、目尻のシワとほうれい線がくっきりしていたのが印象的でした。

それでもネオン街の水で磨かれてきただけはあって、勤務中で制服を着ている間は暗い雰囲気の地味な人なのですが、仕事が終わってから露出の多い服に着替えてバッチリ化粧をすれば、婀娜っぽい夜の蝶に変身していましたよ。

今なら「27歳でキャバ嬢引退なんてまだ早いのでは?」と言えるでしょうが、20年も前のことですからね。
あの頃のキャバクラは未成年の女の子たちが大勢働いていましたので、20代後半にもなると肩身が狭くてなってしまったのかもしれません。当時の女性で27歳といえば、結婚を焦る年頃でもありました。

なんせ「やまとなでしこ」で桜子さんが、「女が最高値で売れるのは27歳。それを超えると値崩れする」と言い放っておりましたので、そうした時代背景を考えると、知美さんにも強い焦燥感があったのだと思われます。
確か、自分も早く結婚して、子供が欲しいと言っていました。
元々病んでいたところへ焦りが加わったことで、常軌を逸した行動に出たのでしょうか。


知美さんは昼職に変わっても真面目に働くわけではなく、仕事中はずーっと喋っていました。
話題は恋愛のみ。毎日毎日飽きもせず男の話しかしません。

「彼がああした、こうした」と職場で逐一報告しながら、自分の健気さ、一途さを訴え、男のひどさ、つれなさを嘆くのです。
「私ってなんて可哀想なのかしら」という、不幸の自慢話を顔を合わせる度に聞かされるので、私も初めのうちこそ可哀想な人だと同情していましたが、次第にげんなりさせられました。


「彼にお腹を蹴られた」「強く掴まれて手首を捻挫した」「壁に叩きつけられた」「お金を貸したのに返ってこない」なんて悲しそうなそぶりで言うんですけど、こちらが「そんなひどい男とは早く別れて幸せな恋をした方がいいですよ」なんてうっかり口を挟むと、猛烈に怒り出すのですから困りました。
「私はただ話を聞いて欲しいだけなんだから黙ってて。彼以外の人は好きになれないから絶対に別れられない!」と。

知美さんは不幸に酔っていることが好きだったのでしょう。不幸な自分に酔っていることこそが、彼女の幸せであったのかもしれません。
でなければ、男と付き合う度に殴られて妊娠中絶なんてしませんよね。


よくよく話を聞いていると、男にモテないわけではないのに、彼女の恋愛はいつも片思いなのです。
恋する度に妊娠と中絶を繰り返しているのは、彼女が相手の男性とまだちゃんと関係を築いていないうちに、避妊をしないセックスを望むのからなのでした。

そして男たちがもれなく彼女を殴るようになるのも、彼女が相手を苛立たせるようなことをわざわざ言うからでした。
知美さんから男に殴られたときの詳細な状況を聞くと、相手は理由なく彼女を殴り始めるわけではありません。もちろん、どのような理由があれ女を殴る男は最低ですが、知美さんの場合はわざと相手を刺激して、自分を殴るように仕向けているように見受けられました。

知美さんは恋愛依存で、男に依存し、かつ不幸にも依存していた。
彼女は常に他人からの同情を求めていました。「可哀想」と思われることでしか他人の注意を引けなかったので、「ひどい男と付き合っていて不幸な私」で居続けなければならなかったのかもしれません。


知美さんは転職してすぐの頃から「彼」との恋にのめり込んでいましたが、私は彼女の「彼」の正体をはじめのうち知らなかったので、同じ建物内のスポーツクラブのインストラクターだと打ち明けられた時にはとても驚き、そして呆れました。その男も職場で何をやってんだと。

彼の奥さんと子供たちはプールを利用しにクラブに来ていたのに、そこで若い部下と社内不倫して、かつ知美さんとも関係してるんですよ。下半身だらしなさ過ぎですよね。

知美さんも病的でまともじゃなかったけれど、彼もまともじゃない。まともじゃない者同士だから惹かれあったのかもしれませんね。


彼の不倫相手だった若い女性にとっては災難だったと思います。
クズ男に手を出されて不倫関係になったばかりか、知美さんに目をつけられて、社内どころか施設内全部の職員やお客さんたちにまで、「彼女はおしとやかそうな顔をして、上司と不倫してるんですよ。とんでもないビッチです」と、噂をばら撒かれていたのですから、お気の毒としか言いようがない。
しかも彼とのメールのやり取りまで盗み見られていたばかりか、それを職場で公開までされて、仕事を辞めざるをえなかったのですから。


恋敵を陥れるためにそこまでやる知美さんも、流石に周囲からドン引きされて、「あの人ちょっとおかしいよね」と嫌われるようになっていきました。
そうすると、「私は何も悪くないのに」と、余計に被害者感情を募らせるのでたちが悪かったです。
いや、他人のメールを盗み見て内容を相手の職場にばら撒くとか、普通に犯罪ですからね…。


知美さんの「彼」に対する執着は凄まじく、何度フラれても粘着し続けてストーカーになっていましたが、彼は最終的にどうやって彼女から逃げおおせたのでしょうか。
私は彼女たちがすったもんだしている間に仕事を辞めたので、結末がどうなったのかを知らないんですよ。

けれど、数年後に彼のFacebookアカウントを見つけた時、彼は不倫相手とも知美さんとも違う女性と再婚していたので、どうにかして逃げきったのでしょう。

知美さんの方は、生きていればアラフィフのはずですが、生きていないかもしれないなと考えています。
20年前の時点で心も体も相当不健康でしたから、幸せな家庭を築いて健やかな生活をしている様子が思い浮かべられないのです。


今回ご紹介したのはこちらの本。


依存姫
菜摘 ひかる
主婦と生活社
2002-05T



著者は元風俗嬢の女性でした。
「でした」というのは、若くしてお亡くなりになっているからです。

彼女の著書は、紙では絶版となっています。ものによってはKindle版で再販されているものもありますが、こちらは中古しかありません。

この短編集は、痛いです。名前の通り、男やセックスに依存することでしか生きていけない女の子たちの物語ですから、どの話も痛みを感じます。


著者がペンで己をえぐり、血をインクに書いたような「依存姫」が出版された半年後に、彼女は世を去りました。死の真相は明らかにされていませんが、衝動的にビルから飛び降りたのだという噂が当時ありました。
ただ、向精神薬の多剤処方を受けていたことでかなり体調が悪く、衰弱していたことを考えると、あるいは病死だったのかもしれません。


「依存姫」を読んだ時、私は物語の主人公たちから知美さんを連想しました。
自己肯定感が低くて、満たされなくて、恋していることで時間を埋め、お金の無心をされるだけの関係であっても、体だけの付き合いであっても、男に求められることで心を埋める。
そんな自分が嫌いだから、過食したり、買い物依存になったり。

それでも菜摘ひかるさんのように、表現の手段を持てばその身の内に溢れるやるせなさを幾分昇華することができますが、ただ夜毎飲み明かすことしかできない知美さんのよう人は、どうやって生きていくのでしょうか。