◆私はダニエル・ブレイク

こんにちは。今日は久しぶりに晴れ渡っていますが、心なしか照りつける太陽も衰えを見せはじめ、夏がたそがれていますね。

今週は遊び呆けていた娘も昨日から塾の後期夏期講習が始まり、我が家は夏休み終わった感が漂っていて、まだ8月ですが気持ちは秋の準備が始まっています。


毎年9月になると実際はまだまだ暑さが続くのに夏色の服は袖を通す気がしなくなってしまうので、秋色の服や口紅を新しく購入しましたよ。気が早いかしら。

そして娘のために卒業式に着る袴のレンタルを予約したり、息子の受験のために志望大学近くのホテルの受験生プランを予約したりと、秋の準備どころか冬も通り越してもう来年春の準備まで始めています。

2学期が始まればあっという間に年末になり、年が明けたと思えば受験がせまり、進路が決まったと思ったら新生活の準備に追われて気づけばすぐに次の夏なんじゃないかと思いますね。


さて、セミナーの話に戻る前にもう一つ、今年の夏で思い出深かったことを記しておきたいので、よろしければお付き合いください。


昨年の夏の終わりは日本を「君の名は」が席巻しておりましたが、今年はパッとした映画がありませんね〜。
ですが、私が以前から見たいと思ってチェックしていた「私はダニエルブレイク」というイギリス映画が高知市にあるあたご劇場という小さな映画館で上映されていたので、見に行ってきました。


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カンヌ映画祭で最高賞を受賞した作品で、テーマはシリアスだけれど予告編を見た印象では心温まる映画なのかなと思っていたのです。




でも違いました。。。
実際に映画を見たら予想に反して救いがなく、希望を見出せない内容の映画でした。


現在のイギリスの厳しい現実が描かれているのですが、そこにはもう私が20年前に暮らしたイギリスの姿はどこにもありません。

映画の中で二人の子供を抱えて頑張っている若いシングルマザーの女の子が、あまりの空腹に耐えかねて食べ物を分けてもらっている最中に缶詰のパスタソースを開け手づかみですするシーンがあります。


「ごめんなさい。お腹が空き過ぎて本当に倒れそうだったの。空腹でめまいがして…、こんなことをしてしまってごめんなさい。」

と自らのあさましさと恥ずかしさに泣き出しながらあやまる姿には衝撃を受けました。


私がイギリスのロンドンで暮らしたのは20歳〜23歳になる直前までの、2年と3ヶ月という短い間でしたが、当時のイギリスにも失業者とシングルマザーはたくさん居たものの、イギリス国民や永住権を持っている移民であれば飢えるほどに困窮している人は居なかったのです。


何故なら、財政健全化のためサッチャー政権時代に世界一手厚かった社会保障はすでに切り捨てられてはいたけれど、それでもまだまだ手厚い社会保証に市民が守られていました。

まず、国籍がイギリス人であれば大学まで学費は無料でした。

そして、失業手当や生活保護の受給は簡単でした。

何よりシングルマザーに給付される児童手当が手厚く、最初の子供に対して日本円に換算するなら月15万ほどもらえたのだったかな。2人目3人目がいればさらに給付金は増額され、母親が働けなくても親子でギリギリ普通に生活していけるだけの現金給付があったのです。

またシングルマザーの就労援助として、資格を取るための専門学校などへは無料で通わせてもらえました。

なんて母親に優しい国なのだろう。「これなら結婚しなくても、子供に父親がいなくても、安心して子供を産んで育てられるな」と感心したものです。


ただ、当時のイギリスでも手厚い社会保障はしばしば批判の対象になっており、絶えず見直しの議論がありました。
「働く気のない女性たちが働かずに生きていくために子供を産んでいるのだ」とか、「失業手当や生活保護が簡単に給付されるせいで、労働者が働く意欲をなくしている」とか、「やつらは生活保護を受給して、そのお金でドラッグを買っている。ケシカラン」だとか言われていましたね。


私がいた当時のイギリス映画で大ヒットしたのはトレインスポッティングとフルモンティですが、どちらも「笑っちゃうほど悲惨」というか、主人公は失業者なのですがストーリーや演出がコミカルで楽しい映画だったので、描かれている現実は悲惨でも悲壮感はどこにもありません。
映画館で友達と一緒に笑い転げながら見たのを、楽しい思い出として覚えています。


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今にして思えば、あの頃はまだ誰も食うには困っていなかったから、「なんとかなるさ」「きっと未来は明るいさ」と笑っていられたのですね。失業していてもパブでのんきに仲間とお酒が飲めた時代でした。



「私はダニエル・ブレイク」の中では、病気で働けなくなった主人公は国の援助を受けるために役所を訪れますが、面接にのぞむ態度が悪いと言われて追い出されたり、紙の申請書はなくネットでしか申し込めないと門前払いされて途方にくれてしまいます。
そして、手間と時間がかかって複雑な手続きに嫌気がして、受給申請を諦めてしまいます。
わざと複雑な制度にして多くの人たちに受給を諦めさせているのだという指摘が映画の中でされていました。


日本でもアメリカやイギリスを含む欧州各国が貧困化しているのは盛んに報道されていますが、私にはいまいちピンときていませんでした。

けれど、20年の間にイギリスは余裕をなくし、かつては手厚かった社会保障制度が維持できなくなって、いまや市民生活や市民の心までもが壊れているのだということを、映画を見て初めて知りました。


「押し寄せる移民や難民が仕事を奪い、彼らは今まで自分たちが払ってきた税金による社会保障でぬくぬくと暮らしているのに、自分たちの生活は行き詰まって必要な時にも国の援助が受けられない」

なぜそんな不満が蔓延(まんえん)し、EU離脱の選択をする結果となったのかも、映画を見て分かったような気がしました。


なんにせよ、私がかつて「こういうところは日本もお手本にすればいいのにな」と思ったイギリスは、もうなくなってしまったようです。