■手入れできるものだけ持つ

なんだか冬らしい空模様で寒い。
たまにお湿り程度の雨も降るものの、近頃は天気が良く乾燥しているので、お古の着物たちを引っ張り出して虫干ししている。

虫干しの前に手持ちの着物を改めて全て引っ張り出し、よくよく考えて着ないものは処分することにした。
ここのところ着物が増えすぎたので桐ダンスを買おうかどうしようか迷っていたのだけれど、やはり家具を増やすと邪魔になる。
山ほど持っていても着物を着る機会がそう頻繁にあるわけでもなし、定期的に虫干ししたりたとう紙を変えたりする手入れが負担にならない範囲内で持ち、気に入ったものだけを大切にしようと思ったのだ。
 

私の着物はほとんどお古だけれど、母方の祖母と父方の祖母では体型が違い、やっかいなのは父方の祖母のお古。
庶民なのに病的に見栄っ張りで、いつしか買い物依存症になってしまったと思われる父方の祖母はさすが億を超えてるんじゃないかという借金で道楽しただけあって、彼女が作った着物は上等の品ばかり。

多分20〜30年前に作ったのだと思うけれどまだ新品同様に綺麗。
しつけ糸がかかったまま一度も着ていなかったりするので、新品同様というか新品なのである。


祖母が娘(私にとっては伯母)のためとか孫娘(私を含めて7人)のためにと作らせた着物は裄や袖の長さをちょっと直すだけで良いのだけれど、祖母自身の着物は譲り受けてもどうにもならないことに気がついた。

母方の祖母は当時としては大変背の高い人で、若い頃の身長は今の私と同じ163cm。だからサイズ的に問題なく着られるのだけど、父方の祖母はとても小さい人で150cmもなかったと思う。 

だから着丈が足りない。腰紐の位置を調整しなんとかごまかして着れなくは無いけれど、袖丈の短さは致命的。細長い体型の私は袖が長めでないと全体のバランスが悪くなってしまう。 

それでも紬と型染めの鮫小紋だけは直すことにした。両方とも布地の価値と値段が高いので新品を買うより直した方がずっと安上がりだからだ。


着られた形跡がなく新品同様だった鮫小紋は裄丈と袖丈を直すだけですんだけれど、紬はどうやら祖母のお気に入りだったらしい。
何度も着用したらしく経年で浮き出た大きなシミや汚れが目立っており、洗張りとシミ抜きをし、胴裏も変えて仕立て直すことになったので15万円もかかってしまった。

それでも直したいと思えるほど美しい染め色の紬だったのだ。
着物のお直しにこんなにお金をかけるのはもうこれで最初で最後にしようと固く心に誓うほど私には痛い出費であったが、同じ品質の紬の着物を新しく作れば軽く数十万〜かかることを思えばこれでも随分安く済んだ。末長く着てしっかり元を取ろう。


しかし色無地と黒の絵羽織は悩んだ末手放すことに。
2枚の色無地は落ち着いた色で、今の私には渋すぎるけれど60歳を過ぎれば似合いそう。
とはいえ色無地程度の着物ならお古にお金をかけてあちこち直すよりも、いっそ気に入った生地を選び新しく作った方がさほど変わらない金額でよほど自分にぴったりしたものが買えるのではなかろうか?

絵羽織も刺繍が見事だけれど、これも私には丈が短すぎる。
そもそも昔の羽織は黒羽織でなくても丈が短いのだけれど、それにしたってちんちくりんだ。
また、伯母の家での保管の仕方が悪かったのか私の実家での保管が悪かったのか、あるいは私が悪かったのか、しつけ糸がかかったままの新品だというのに白カビが生えていた。

悉皆屋さんに相談したら、仕立て直して丈は出せても5cm伸ばすのが精一杯だというし、直さなくてもまずは高額なカビ取りクリーニングに出さねばならない。カビは着物に根を張るうえに増えるので、放っておけば他の着物にもカビが移ってしまう。
あぁ、着物は管理が難しい。


ただクリーニングに出したところで黒の絵羽織にはたして出番があるだろうか?とこれまた悩む。
息子と娘の卒業式や入学式はまだこの先何度かあるけれど、黒の絵羽織はザ・昭和のコスプレである。子供が主役の場だというのにきらびやかな訪問着を着てくる母親たちより悪目立ちしそうで気がひける。
う〜ん、 う〜んとしばらく悩んだあげく着物買取業者に送る箱に詰めた。


父方の祖母の色無地に黒の絵羽織、その他もろもろをネットで探した買取業者に送ったものの、なんと全部で1500円にしかならずに驚いた。
高額買取とうたっているのに高額では無い理由は「着物が小さすぎるので需要が見込めない」ということだった。

今まで不要な古い着物は友人知人に譲っていたので買取をお願いしたのは初めてだったけれど、着物は買うときには高いけれど売るときには 二束三文だと言われるわけが初めて分かった。
こんなことならおばあちゃん、同じ買い物狂いになるのでも金やプラチナやダイヤにしてくれていればよかったのに。。。


それでもこうして買取業者がただ同然で買いたたくからこそ、私も着物リサイクル店で上等の着物が数千円から1万円ほどで買って楽しめるのだと思うとそれも仕方ないなと思う。

こちらの着物は20代の終わりに東京の着物リサイクル店で買い求めたもの。

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正絹のきもので新品同様だったけど安かった。どこかの誰かがただ同然で手放してくれたおかげである。
お気に入りだったので何度も着て、まめにクリーニングにも出していたけれど、このところしまいっぱなしだったせいか広げてみると胴裏一面にシミが。。。

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ネットで調べたところ転々としたシミはカビが原因らしい。カビよ、またお前か!


胴裏を変えるとお金がかかるのでもう処分しようかどうしようかとこれまた悩んだけれど、じっと見ていたら「このきものを着てあそこへ出かけたなぁ」とか、「そういえばあの人に会いに行ったのもこの着物だった」とか、いろんな思い出が蘇ってきた。
やはりこの着物は手放すことはできない。手入れしながら手元に置こう。

お古の着物には金糸や金箔がふんだんに使われている豪華な訪問着や振袖、総絞りや作家作品の贅沢な小紋もあるけれど、結局は初めて自分で選んで自分で買ったリサイクル品に一番思い入れがあるのだった。

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