■どこにも居場所が無い人達
 
帰れない女達part1の続きです。

お金持ちで、世間知らずで、社会経験が無いままトウが立ったお嬢様か、仕事にやりがいが無く結婚の予定も無い20代後半の元OL。

それは当時ロンドンに語学留学してくる日本人女性の最も典型的な例でした。


私が出会ったお嬢様は不思議な方が多かったです。

彼女達の大半は20代後半から30代前後でしたが、留学の目的がよく分かりません。

お金はかかっていそうだけれど形容のしがたい個性的なファッションを楽しんでらっしゃる方が多く、日本語は話せてもお互いの常識が違うので話が通じないと感じ、彼女達と仲良くなることは出来ませんでした。


例えば、25歳だけれど精神年齢は中学生くらいにしか思えない子供染みたお嬢様が、 

「私は働いたことが一度も無いし、結婚するつもりもないの。お母さんが私には外に出ないで家に居て欲しいって言うから、これからもその予定は無いわ。 
一生働かずにずっと家(実家)に居ることが、私の一番の親孝行なのよ。」 

と邪気の無い笑顔で言い放った言葉があまりに印象的過ぎて、今でも忘れられません。 


彼女達は日本でも屈指の企業の社長や役員のご令嬢だという方々でしたが、姉妹で留学してきているのに別々のマンションに住み、親からの仕送りもそれぞれ月50万は下らないと言う姉は、移動はタクシーオンリー。

3食レストランで外食だというばかりか、通学も自宅前から学校の門まで毎日タクシーでほぼ歩くことが無いという生活を聞き、彼女の脚には果たして筋力というものがあるのだろうかと不思議な気持ちになりました。 


容姿の地味な姉に比べてファッションモデルのような身長と美貌の持ち主だった妹は、ロンドンで美容師をしていた日本人の彼氏をかこって親からもらう仕送りを貢ぎ果たしていましたが、2人でイギリスを出て旅行へ行った際に彼氏はあえなく空港で捕まって日本へ強制送還、イギリスへの再入国を禁じられました。 

彼は学生ビザで滞在していたようですが、在籍していた語学学校には授業の実体がなく、労働許可証を持たずに不法就労もしていた為です。 


イギリスにはお金を払えば学生証を発行してくれる実体の無い語学学校が幾つもありました。彼もそうした学校を利用していたようです。 
彼が働いていた美容院は日本人相手のサロンで在英日本人の間でも人気がありましたが 、スタッフの労働許可証が取れる真っ当な事業主ではなかったのですね。 


修学の実体あるなしに関わらず、イギリスで何年も学生ビザのまま滞在している日本人が強制送還になる事例は珍しくありませんでした。 

滞在許可の延長申請は入国管理局に出向いて手続きしようとすると順番を待つだけで丸1日が潰れるので、近場に旅行へ出て帰ってくる時に空港などの入国審査で延長してもらうのが手っ取り早く、ビザの期限切れが近づくと近場へ短期間の旅行に出かける学生が多かったのですが、入国審査官もバカではありません。 

「君は学生だと言うが、僕との会話もままならない貧相な英語力で何年も英国で学んでいる学生だというのはおかしい。もし本当に学生だったとしても何年も滞在して英語力が身に付かないのでは帰った方がいいだろう。」 

と言われて、数日のうちに英国からの強制退去を命じられ、違反した(言いつけ通りに出て行かなかった)場合は不法移民として当局に拘束されるのです。 


だから、自分にはその可能性があるという自覚のある人はビザの更新時期が来るたびに怯え、

「ヒースロー空港のイミグレ(イミグレーション・入国審査のこと)より、船便でドーバー海峡からイギリスに入国した方が簡単にビザがもらえるらしい。」 

などのガセネタに踊らされたり、何十万も払って小悪党のイギリス人弁護士に滞在許可証の代理申請を依頼することになります。 

また、就労許可証の取得は大変条件が厳しく、例え完璧に書類を揃えていても審査官の心意気一つでもらえたりもらえなかったりします。 

余談ですが、私は条件を満たす書類が揃っていなかったにも関わらず、係官の前で「あの…、だって…。」と言葉を詰まらせ目に涙をいっぱい溜めたら、「分かったよ。これでいいかい?」と労働許可証がもらえたことがありました。 


話を戻します。 

そこで、取得の難しい労働許可証は諦め、多少のことはバレないだろうと労働許可がないまま飲食店等でアルバイトする学生は後を絶たず、「どうやら店にイミグレが来たらしいから逃げないとヤバい。」と、いつ不正就労が発覚し強制送還になるのかとビクついている学生もよく居ました。 
  
外国人労働者の不法滞在や不法就労は日本でも問題になっていますが、日本人だって海外に出れば同じことをしているのです。 


何故彼ら、彼女達はそうまでしてロンドンに留まりたかったのでしょう。 
どうしてそんなに日本に帰りたくなかったのでしょうか? 


分かるような気はしました。 

ロンドンは世界有数の都市の一つではあるけれど、東京ほどには人も車も建物も過密しておらず、時間はゆっくり流れています。 

個人主義が発達し社会が成熟しているので、日本社会で感じるような同調圧力は無く、他人の目を気にしながら生きる必要がありません。うるさく人生に口出ししてくる親や親族も近くに居ません。 

在英日本人も当時は沢山居ましたから日本人向けのサービスが充実しており、英語がほとんど出来ないままでも不自由なく暮らしていけます。 

外国都市での生活は楽なのです。日本ではどうにもならない落伍者にとっては特に。 
  

勉強するフリをしてただ毎日遊び暮しているお嬢様よりも帰れなくなるのは、英語習得によってキャリアアップを目指してやってきたもう若くはない元OLです。 

彼女達は元々1〜2年の留学で英会話力を身につけ、英語検定で高い成績を取り、日本に帰ってからキャリアアップを目指していたはずの人達です。 

彼女達の多くは元々優秀ではないのに、たった1〜2年の英国生活で仕事に生かせる程の英語が身に付く訳がありません。 

そもそも優秀な人材には会社が投資して留学費を出すか、引き止めて休職扱いにしますから、わざわざ会社を辞めて自費で留学してきている時点で見込みが無い人なのです。 


1〜2年経って大した英語力も身に付いておらず、日本に帰っても前職よりキャリアアップの見込みが無い女性達は、日本を出たときより歳をとったぶん就職には更に不利になっただけ。 

見込みが無いと分かったなら1日でも早く帰国し、日本で人生を仕切り直すのが損失を最小限に抑える最も賢い道なのですが、プライドが邪魔して出来ません。 

キャリアアップの夢を語り啖呵を切って日本を出て来たのに、どうにもなってない自分ではカッコ悪くて帰ることも出来ないのでしょう。 

そうした女性達はやがて「日本には帰りたくない。帰れない。」という一念だけで、異国社会で底辺の生活に甘んじるようになります。 


続く。